2024/06/24
骨折と骨粗鬆症について
今回は、高齢化社会の中で益々重要性が増している骨粗鬆症についてお話しします。骨粗鬆症に対する興味や正しい知識を持って、楽しい老後を過ごしていただきたいと思います。
骨粗鬆症とはどんな病気?
骨粗鬆症の「しょう:鬆」の字は穴という意味で、骨の中に穴が多数空いて骨折しやすくなった状態です。
正常な腰の骨、腰椎の断面図を拡大してみると網目状の骨が太くて丈夫であることが分かります。高齢になったり、閉経後に女性ホルモンが減ったりすると網目状の骨は細くなり、多数の穴が空いてしまいます。そのため骨が脆くなり、尻餅をつくなどのちょっとした外力でも潰れて圧迫骨折と呼ばれる骨折を起こしやすくなります。
どうして骨粗鬆症になるのか?
実は骨も新陳代謝をしています。常に古い骨が壊されながら、その一方で新しい骨が作られています。道路工事で古くなったアスファルトを取り除き、新しいアスファルトを敷くのとよく似ています。
若いときは骨を壊す骨吸収と骨を新たに作る骨形成のバランスが取れていますが、女性ホルモンが減ったり高齢になると骨吸収の方が骨形成より優性になります。この状態が何年も続くと骨が脆くなり、これが骨粗鬆症の原因です。
骨の強度と骨密度について
ちょっとしたことで骨折する理由は骨の強度が弱くなっているからです。生きている人間の骨を取り出して調べることはできませんので強度を正確に調べることはできませんが、体の外から放射線などを当てて骨の中のカルシウムの重さ、つまり骨密度を測定することでおおよその強度が分かります。
骨の構造はコラーゲンというタンパク質の周りにカルシウムが沈着してできています。この構造は鉄筋の周りをコンクリートが囲む鉄筋コンクリートに例えることができます。コラーゲンが鉄筋に、カルシウムがコンクリートに相当します。
骨密度の低下には、年齢が大きく関係しています。20歳~45歳頃の骨密度が人生の最大で、これを最大骨密度と呼びます。女性の場合50歳頃の閉経を過ぎると約15年間は骨密度は急速に低下し、その後はゆっくり低下しますが、平均すると約2%の速度で低下します。最大骨密度を100%として、検査を受けた人の骨密度が70%以下になった場合を骨粗鬆症と呼びます。この領域に入ると簡単に骨折するようになります。
胸椎・腰椎の圧迫骨折が最も多く、中には転倒や尻餅がなくて自分の体重が支えきれずに骨折が起こることもあります。激しい腰痛にもかかわらず本人はただのギックリ腰と勘違いして骨折とは思っていないこともしばしばです。
レントゲンとMRI検査
骨折の判定には基本的にレントゲン検査を行います。しかし、圧迫骨折の場合は、MRI検査をお勧めします。
強い腰痛が続くので当院に来たという患者さんの中には、他の病院でレントゲンを撮っても「骨に異常はない」と言われたという方がいらっしゃいます。MRIを撮ると骨折がはっきりと分かります。圧迫骨折に限って言えば初診時のレントゲンだけでは診断率は60%です。腰痛が激しい場合には、是非MRI検査を受けられることをお勧めいたします。
胸椎や腰椎の圧迫骨折について
背骨は肋骨がついている12個の胸椎と肋骨がついていない5個の腰椎、計17個の骨から成り立っています。若い頃には背筋はまっすぐですが、年齢と共に背骨がだんだん丸くなってしまいます。
骨粗鬆症の結果、弱い力で胸椎や腰椎に圧迫骨折が起こることが原因です。一度潰れた骨は2度と元の形には戻りませんので、骨折の数が増えるとだんだん猫背になり酷くなると移動に杖や車椅子が必要になることもあります。内臓も圧迫され、肺が十分膨らまなくなったり、胃が圧迫され江逆流性食道炎等の病気になることもあります。
また、圧迫骨折は続いて起きやすく、2回目の骨折が起きる頻度は1回目の骨折が起きる頻度の4倍であることが分かっています。そのためには、1回目の骨折を起こさないことも大切ですが、不幸にして起きてしまった場合には、積極的に骨粗鬆症の治療をして、2回目の骨折を防ぐ必要があります。
股関節の骨折について(大腿骨頚部骨折・大腿骨転子間骨折)
骨粗鬆症による骨折で胸椎や腰椎に次いで多いのが股関節の骨折です。脚の付け根の股関節は、上の骨盤と下の太ももの骨(大腿骨:だいたいこつ)とをつなぐ関節です。
大腿骨の一番上の部分は球形をしているので骨頭(こっとう)と言い、そのすぐ下の細くなった部分を頚部(けいぶ)と言います。人間の頭と頚の関係と同じです。頚部より少し下の太く出っ張った部分を転子部(てんしぶ)と言います。
大腿骨の頚部を骨折すると大腿骨頚部骨折と言い、人工骨頭という金属製の関節に入れ替える手術を行う必要があります。また、大腿骨の転子部で骨折した場合は大腿骨転子部骨折と言い、専用の金具で骨折部をつなぐ手術を行います。
骨粗鬆症治療を行い、これらの骨折を予防することが大切ですが、不幸にして骨折した場合にも、早い時期に的確な手術を行えば再び歩けるようになります。
骨密度の測定方法について
骨密度の測定方法としては超音波を脚に当てる超音波法や、手の甲とアルミニウム板と一緒にレントゲンを撮って比較するレントゲン法がありますが、最も正確なのはデキサ法を用いて腰椎や股関節の骨密度を測定する方法です。
当院の骨密度測定器は最も信頼が高いデキサ法で腰椎と股関節を同時に測れるので、かなり正確な測定が行えます。
骨粗鬆症にならないために
骨粗鬆症にならないためには、若いときの骨密度(最大骨密度)を上昇させることが大切です。具体的には運動する、偏食しない、極端なダイエットをしないなどです。
残念ながらこの時期を過ぎてしまった方は、まず50歳以上になったら2年に1回程度、骨密度を測定することをお勧めします。骨密度の低下があれば食事療法だけでなく何らかの薬物療法が必要です。女性は平均65歳で骨粗鬆症になることが分かります。
閉経後は年平均2%で骨密度が低下していくので何らかの治療が必要です。骨粗鬆症の薬には色々は種類があります。カルシウム製剤とビタミン製剤は年々低下する骨密度の速度をゆっくりにする程度の効果しかありませんでしたが、右の表の点線よりしたの4種類の薬を使うと逆に骨密度を上昇させることが可能となりました。
そういう意味で画期的な薬が使えるようになったわけです。毎日飲む薬から、6ヶ月に1回で済む注射や1年に1回で済む注射まで様々な薬剤があります。効果や副作用も薬剤によって様々ですので、患者さんの骨密度の程度や持病、状態に合わせて処方していきます。
昔は骨粗鬆症は避けられない老化現象であって治療の対象外といった感じでした。しかし現在では、診断も薬剤も格段に進歩して治せる病気と考えられるようになってきました。今後も続々と効果の高い薬剤が発売される予定です。骨粗鬆症の治療をあきらめずに続けて、明るい老後を過ごしていただきたいと願っています。