脳血管内治療科
脳血管内治療とは、手足の血管からカテーテルを挿入し、頭の血管まで細いカテーテルを進めて脳の病気の治療を行う、いわゆるカテーテル治療です。この治療の一番の長所は、頭を切らずに治療が出来るため身体への負担が少ない点です。メスで頭を切るのではなく、太ももの付け根の小さな針穴から治療するため、術後の回復も早く、仕事や家庭復帰が早いのが特長です。
治療対象となる病気は急性期脳梗塞、脳動脈瘤、内頚動脈狭窄症、脳や脊髄の動静脈奇形・硬膜動静脈瘻、脳腫瘍など多くの脳神経の病気が挙げられます。当院では2018年に最新鋭の脳血管造影検査装置を導入し、より良い治療環境で血管内手術を行っています。
急性期脳梗塞に対する再開通療法
脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまい脳細胞に血液が流れず、脳細胞が壊れてしまう病気です。一度起こってしまうと治すことが難しい病気ですが、脳の血管が詰まってから早ければ早いほど治せる可能性のある病気です。t-PA(アルテプラーゼ)という薬を静脈注射して詰まった血栓を溶かして血管の再開通を図ります。
ただし、このt-PA療法が、すべての脳梗塞患者さんに効果があるわけではありませんし、いろいろな理由で使用することが出来ない患者さんもいます。そこでt-PA静注療法が効かなかった患者さん、t-PA静注療法が使えなかった患者さんに対してカテーテルで詰まったところを通す治療(血管内治療)を行なっています。これは脳血栓回収療法と呼ばれるもので、ステント型血栓回収器具など最新の治療デバイスを用いて実際に血栓を血管の中から取り除いて再開通させ治療します。
2018年に発表された論文では、発症24時間以内の脳梗塞で、様々な条件が適応すればこの治療が有効な事が示されました。今後、より多くの患者様がこの治療法の対象になると思われます。当院では24時間365日、この脳血栓回収療法を行える体制を整えています。
脳梗塞の治療には、「Time is brain.」という言葉があります。「Time is money.」から派生した言葉ですが、早期発見・早期治療が脳梗塞治療の要であることをよく表している言葉です。脳梗塞を疑えば、一刻も早く救急受診しなくてはなりません。ではどのような症状の時に、脳梗塞を疑うべきなのでしょうか?
右記に掲載したのは国立循環器病センターが作成した「ACT―FAST」というスローガンポスターです。これは脳卒中を強く疑うべき三つの症状、顔の麻痺(Face)、腕の麻痺(Arm)、ことばの障害(Speech)の頭文字を組み合わせたものです。T は時刻(Time)の頭文字で、発症時刻(Time)のことです。三つの症状の有無と発症時刻を確認して、一刻も早く救急受診するよう呼びかけるスローガンです。もし、症状が当てはまれば一刻も早く受診しましょう。
くも膜下出血に対する治療
くも膜下出血は、動脈瘤が破裂しておこる病気です。脳動脈瘤は脳血管の壁が“こぶ”のように膨らんで発生します。そのこぶの壁は弱く、破裂によりくも膜下出血を引き起こします。一般に激しい頭痛で発症し死亡もしくは重い後遺症を残す病気です。脳動脈瘤は一旦破裂すると再び破裂する確率が高くなり、最初の破裂が軽くても、再出血して命に関わる可能性がさらに高くなります。そのためくも膜下出血を起こした場合、緊急で治療が必要になります。
治療法には開頭手術(クリッピング術)と血管内治療(コイル塞栓術)があり、患者さんの状態や動脈瘤の大きさ・形・場所に応じて治療法を提案します。血管内治療は大腿部の動脈から細いカテーテルを脳動脈に誘導し、プラチナ製の“コイル”を瘤内に留置することで脳動脈瘤への血流を遮断し破裂を回避します。
未破裂動脈瘤に対する治療
破裂する前の脳動脈瘤に対しては、破裂する前に予防治療を行います。未破裂脳動脈瘤は通常は自覚症状がほとんどなく、脳動脈瘤が破れてはじめて頭痛や意識障害をきたします。従って、自分が脳動脈瘤を持っているかどうか心配な方々には、脳ドックなどのMRI検査で脳血管精査をすることをお勧めします。
一般的に脳動脈瘤の破裂率は年間1%程度と言われています。ただし大きいものや、前交通動脈瘤、脳底動脈瘤などは破裂率が高いので注意が必要です。脳動脈瘤の破裂予防に有効な薬はなく、予防には手術が必要です。
予防手術には2通りの手術法があり、
1.「クリッピング術」:開頭して動脈瘤の根元にクリップをかける手術
2.「血管内手術(コイル塞栓術)」:足の付け根から管を入れてコイル(金属の糸のようなもの)を動脈瘤に詰める手術
上記2通りの手術法があり、動脈瘤の形や部位、年齢などを総合的に判断して手術法を提案します。
「ステント併用コイル塞栓術」:動脈瘤の根本が広いためコイル治療が不可能であった動脈瘤も最近では治療が可能になっています。スプリングのように自ら広がる金属のメッシュの筒(ステント)を動脈瘤の入り口(ネック)を覆うように血管の中に留置しその隙間からコイルを充填します。
内頚動脈狭窄症に対するステント留置術
動脈硬化などに伴い、脳に血液を送る内頚動脈(ないけいどうみゃく)が細くなっている病気を指します。軽度の場合には内服治療で十分ですが、狭窄が高度の場合には脳梗塞を起こす危険性が高いため、細いところをひろげる治療が必要です。
切る手術と切らない手術の2通りがあり、切る手術は分厚くなった血管の壁を取り出す頚動脈内膜剥離術、切らない手術は細くなったところを風船とステントという金属メッシュで広げる頚動脈ステント留置術です。
当科では術前の精密検査で詳細に検討し、より適した治療をお勧めしています。
脊髄の硬膜動静脈瘻に対する選択的血流遮断術(塞栓術)
腰痛、歩行障害をきたす脊椎・脊髄疾患の中に脊髄の硬膜動静脈瘻という血管の病気が稀ならず認められます。症状はゆっくり進行することが多い病気ですが、骨に異常がない場合にはMRI検査によって脊髄の硬膜動静脈瘻の診断がつく場合があります。この治療には血管内治療が現在、低侵襲で有効な治療となります。