- 胆嚢結石症
- 傷口が目立たない手術法
- 質問箱
胆嚢結石症(たんのうけっせきしょう)
胆嚢結石症とは?
- 胆嚢(たんのう)は肝臓の下面にある洋ナシ型の袋で、肝臓でつくられた胆汁を濃縮貯蔵しておく臓器です。胆嚢結石は、胆嚢の機能が低下し胆嚢内にコレステロールやビリルビンが結晶化したもので、約 5~7 %前後の人に見られます。症状として、右季肋部痛(みぎきろくぶつう)や右背部痛、発熱、黄疸(おうだん)などが見られます。
なぜ手術をするの?
- 胆嚢は胆汁を濃縮貯蔵していて、食事(特に脂肪)をとると収縮し、胆管を通じて胆汁を十二指腸へ送り出します。胆石ができていると、胆嚢が収縮したときに激しい痛みを伴うことがあります。また、胆嚢炎を引き起こすこともあります。痛みの発作や胆嚢炎を繰り返すような場合は胆嚢摘出術の対象になります。また健康診断などで胆嚢内にポリープが発見され、そのポリープの大きさが1cmを超えるような場合にも胆嚢摘出術の対象になります。
あなたの胆石はどのタイプ?
胆石は、コレステロ-ルを主成分とするコレステロ-ル系結石、胆汁色素であるビリルビンを主成分とするビリルビン結石、黒色石に大別されます。欧米諸国では、以前からコレステロール系結石が多く、わが国でも食生活の欧米化とともに次第にコレステロール系 結石が多くなり、60%を占めるようになりました。 結石の大きさは、1~2mmの砂様なものから、ゴルフボ-ルより大きいものまであります。胆石の数も1個から数百個まで様々です。
(1)コレステロール胆石
よくコレステロールが貯まると胆石ができるなんて耳にしますが、実はコレステロールが主成分でできた石が全体の 60%を占めます。これらコレステロール胆石は、胆汁内のコレステロール濃度が過剰となることが原因とされ、加齢、肥満、女性、妊娠、食生活などが原因とされます。またこの結石は胆汁が濃縮される場である胆嚢で多くみられます。発生頻度が一番高く、これらの結石が一番良く耳にするのではないかと思います。
(2)色素胆石
他の胆石として、色素胆石と呼ばれ黒色石とビリルビンカルシウム石があります。それぞれ胆石全体の 20%を占めます。黒色石は、ビリルビンが主成分となります。血液の病気でビリルビンが多くなる病気、肝硬変や心臓弁置換術後などでみられます。この石も胆嚢内で形成されます。ビリルビンカルシウム石は、胆汁の流れが悪くなり腸内細菌(大腸菌が多い)の感染を起こしてそれに反応してできた石と考えられています。ですから、この結石は胆嚢ではなくて胆管にできやすい石です。
どんな手術?
胆嚢摘出術には、腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いて手術する場合と、開腹して手術をする場合とがあります。
(1) 腹腔鏡下胆嚢摘出術
お腹に1~4ヵ所の小さな穴をあけて、腹腔鏡を挿入し、内部を観察しながら胆嚢を切除する方法です。現在、胆石症の標準的な手術になっています。麻酔は全身麻酔で行います。一般に手術時間は30分~1時間くらいで、術後2~5日間の入院となります。当院では、通常より細い鉗子を用いて手術を行っており、キズが小さく美容的で、手術後の痛みも少なく、早期の社会復帰が可能です。また、キズは吸収する糸で縫っているので抜糸の必要がありません。
(2) 開腹手術
全身麻酔で行います。一般に手術時間は2時間くらいで、術後7~10日間ほどの入院になります。
※ 手術方法は患者さんの状態によって変わりますので、医師の説明を十分に受けて下さい。
手術の合併症は?
これらの合併症は、通常術後2週間以内におこります。2週間経過した時点で、これらの合併症が無ければ、それ以後に新たに発生する危険性はほとんどありません。
- 出血
- 感染(肺炎、創感染、腹腔内膿瘍)
- 総胆管損傷 ・胆汁漏
- 梗塞(脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞)
胆嚢摘出術は、胆嚢炎の程度によって手術の難しさはかなり左右されます。胆嚢の炎症や、周囲の臓器との癒着(ゆちゃく)が軽い場合には安全にできますが、胆嚢炎が激しい場合には一転して非常に難しい手術となります。腹腔鏡を使って手術を開始しても、炎症や癒着が強く危険を伴うときは、開腹手術に切り替えることがあります。
手術中に胆管など胆嚢のまわりにある重要臓器を傷つけることはほとんどありませんが、胆嚢周囲の炎症や癒着がひどい場合には、まわりの臓器を傷つけることがあります。
手術中に輸血が必要になることは少ないのですが、炎症などによって輸血が必要になる可能性もあります。一般的に胆嚢や胆管などの病気は、患者さんの状態により手術の難しさにかなりの開きがでます。
手術後の注意
胆嚢を取ってしまっても胆汁が出なくなるわけではありませんので、ほとんど身体には影響ありません。しかし、ときに胆汁の分泌を促す薬(ウルソ)が必要になることもあります。 医師の指示にしたがって服薬して下さい。
傷口が目立たない手術法
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術
たんこうしき ふくくうきょうか たんのうてきしゅつじゅつ
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術とは?
- 傷口が臍(ヘソ)の部分だけなので、キズが目立たずとても美容的です。
- 回復も早く、従来の手術方法より短い入院期間(2~3日)で退院できます。
- 専門の医師、熟練した医師のみ出来る手術方法です。
手術は、日本内視鏡外科学会技術認定医を取得した専門医が責任を持って行います。
どんな手術?
「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(Single Port Surgery : SPS)」は、ヘソ下に1ヵ所の小さな穴をあけて胆嚢を切除する最小侵襲手術(Minimally Invasive Surgery)です。一般に手術時間は1時間くらいで、術後1~3日間の入院となります。キズがほとんど目立たず美容的で、手術後の痛みも少なく、早期の社会復帰が可能です。キズは吸収糸で縫っているので抜糸の必要はありません。腹腔内で使用する吸収性クリップは体内にて分解吸収されるため、術後のレントゲンやMRI検査での影響を受けません。「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」は、手術器具の進歩にともない日々進化してきました。現在当院では、最新のアクセスポート(単孔式手術装置)を用いた“マルチチャンネルポート法”を行っています。2009年5月14日、福岡で初めて「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」を行いました。現在までに1000症例以上を行いましたが、術後経過は良好です。
SPS手術後1年目
腹腔鏡手術器具
- ロングスコープ
- ロング胆嚢把持鉗子
- 可変弯曲型把持鉗子
- 超音波凝固切開装置
- 電極付洗浄・吸引器
単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の実際
「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」 は、ヘソ下に約1.5cmの切開を加えるだけなので、ほとんどキズは目立ちません。術後癒着や創出血などのリスクも少なく、肥満の方にも有効です。 手術法や手術器具の進歩により、胆嚢疾患の95%以上の方に 「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」 が可能です。
この手術法は、従来法(4ポート)と比べると手術操作が特殊で、技術的に高度なものが必要です。 安全に手術を行うためには、より繊細かつ素早い操作と判断力が必要です。 当院では、日本内視鏡外科学会技術認定医を取得した専門医が責任を持って行っております。
スポンジチューブ法(2009年~)
当初はまだ良い単孔式手術用器具が開発されておらず、キズを小さくするためにこの手術法を考え出しました。 臍部に1.5cmの切開を加え、滅菌したスポンジチューブを3本挿入します。 スポンジチューブ内にトロッカーを3本挿入して気腹します。ロングスコープ、可変弯曲型把持鉗子、超音波凝固切開装置、電極付洗浄・吸引器、ニードル型把持鉗子を用いて手術を行います。
イージーアクセス法(2010年~)
イージーアクセスは、単孔式手術用に開発されたカメラや鉗子を挿入する装置です。 手術をよりスムーズに行うため、この手術法に変更しました。 臍部に1.5cmの切開を加え、イージーアクセスを用いてトロッカーを4本挿入します。 臍部創のみからの手術が可能になりました。
マルチチャンネルポート法(2011年~)
マルチチャンネルポート法は、最新のアクセスポート(単孔式手術装置)を用いて行う手術法です。鉗子の操作がしやすく、手術の安全性がさらに高くなりました。手術創への負担も少なくキズもきれいです。
手術操作図
手術中の様子
①胆嚢は肝臓の下にくっついています。
②胆嚢を胆嚢把持鉗子で持ち上げます。
③胆嚢管・胆嚢動脈を慎重に剥離します。
④胆嚢動脈を吸収性クリップでクリッピングして切離します。
➄胆嚢管を吸収性クリップでクリッピングして、胆嚢管を切離します。
⑥胆嚢を肝臓から剥離して胆嚢摘出術終了です。
これまでの手術成績
「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」を1,304症例に試み、96%施行しました。従来法(4ポート)に変更した症例は42例でした。開腹移行症例は14例あり、重症急性胆嚢炎、胆嚢管三管合流部に嵌頓した症例、動脈性出血による止血コントロール不良症例でした。
平均手術時間は57.8分(25~185分)、平均在院日数は2.8日(1~7日)でした。
創部感染等の術後合併症も少なく、術後2週間目の再来時には手術創はほとんど目立ちませんでした。
症例数 | 1,304 |
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年齢 [歳] | 51.5 (18~93) |
手術時間 [分] | 57.8 (18~185) |
完遂率 [%] | 95.7% (1,248/1,304) |
合併症 | 18 (創感染、胆汁漏、総胆管損傷、腹壁瘢痕ヘルニア) |
ポート追加 | 42 (急性胆嚢炎、重度癒着、肝硬変) |
開腹術移行 | 14 (重症急性胆嚢炎、嵌頓結石、出血) |
患者様の負担をできるだけ少なく…
当院では “安全” かつ “患者様にやさしい医療” を心がけ日々診療にあたっております。
「単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(SPS)」 について詳しく知りたい方は、 なんでもお気軽にご相談ください。
福岡輝栄会病院 外科部長 山本純也
質問箱
胆汁という一種の消化液が肝臓でつくられ、胆管を通って十二指腸に放出されます。胆汁が肝臓から分泌される量は1日あたり 500~800mlになります。胆汁は、胆汁酸やビリルビン、コレステロールが含まれていますがその 90%は水分で構成されています。胆嚢内で 6~12倍に濃縮されます。消化酵素は含まれていませんが、十二指腸で膵液と一緒になることで、胆汁が膵液の持つ消化酵素を活発にして、脂肪やタンパク質を分解して腸から吸収しやすくします。
この胆汁によって、時に「胆石」という石ができてしまうことがあるのです。この石は、胆汁が濃縮される胆嚢に一番よくできます(胆嚢結石)。しかし、時には胆管のいろいろな場所にできてしまうこともあります(胆管結石) 。
胆嚢にできる結石は、コレステロール結石という白っぽい丸みをおびた石であることが多く、ときには何十個も一度に出てくることもあります。胆管結石はビリルビン結石という黒っぽいものが多く、一個でも激しい症状を引き起こすことがあります。
どんなときに気づくの?
(1) 突然の激しい上腹部痛(疝痛発作)で気づく(急性症状)
何の前触れもなく、突然激しい上腹部痛に襲われます。ただし、よく聞いてみると、暴飲暴食や過労が引き金になっていたり、いままでも上腹部(胃)の調子が悪かったということがあります。
(2) 以前から何となくお腹(上腹部)の調子が悪いというので気づく(慢性症状)
なんとなくお腹の調子が悪い(本人は「胃が悪い」と感じている場合があります)、特に食後、主に脂っこいものをたべた後などに上腹部痛や吐き気、食欲不振があるのでお医者さんにかかって発見されるということも少なくありません。
どうしたらいいの?
疝痛発作(せんつうほっさ)のような激しい症状は、ともかく痛みを抑えなければなりません。鎮痛剤や胆嚢の緊張をゆるめる薬剤(ブスコパン)を用います。それに多くの場合細菌感染が起こっていることが多いので抗生物質なども用いられます。
しかし、これでとりあえず痛みは治まったとしても、根本的な原因である胆石はなくなるわけではありませんから、いつ再発するかわかりません。
放っておくと疝痛発作が再発したり、不快症状がしつこく続いたり、場合によるとガンの危険が増すといった危険を伴います。石をなくすという根本的な治療に踏み切るかどうかは、医学的な状況判断をお医者さんからよく聞いて、患者さんが決断しなければいけません。
検査と診断は?
痛みの状況、起こった経過、たとえば食事、飲酒、過労など関係があると思われる事柄、今までにも上腹部の不快感を感じたことがなかったか、などをお医者さんによくお話し下さい。腹部超音波検査を行います。超音波検査は患者さんに負担にならず、胆嚢の状態や結石を直接みることができます。その他、X線撮影、血液の検査、場合によるとX線断層撮影(CT)などが行われることもあります。ただし、このような上腹部の症状は、胃炎とか胃・十二指腸潰瘍、あるいは初期の胃癌などと区別しなければなりません。自分で「胆石!」と決めつけず、よくかかりつけのお医者さんと相談してください。
どんな治療法があるの?
(1) 手術
石のある胆嚢をまるごと切除してしまうのが根治手段です。 胆嚢の機能が落ちたために石ができるので、これが唯一根治的な治療法といえます。通常、お腹に4ヵ所の小さな穴をあけて、腹腔鏡を用いて胆嚢を切除する「腹腔鏡下胆嚢摘出術」が行われています。患者さんの負担は軽くなりますが、開腹手術とどちらがより適しているかは、医学的な判断が必要ですのでお医者さんとご相談下さい。
(2) 内服薬
胆汁の分泌量を増やしたり、その性質を変化させて石をとかしてしまうという狙いの薬剤(ウルソ)が開発されています。ただし、再発予防のために薬を長期間飲み続けなければいけなかったり、大きな石や石の数が多い場合は手に負えないこともありますので、病状と照らし合わせて、お医者さんとよく相談して下さい。
(3) 衝撃波
結石の粉砕除去を目的として体外衝撃波を用いる方法です。腎結石治療が一般的で、条件としてコレステロール結石(2cm以下、3個以内)、胆嚢機能が良好であることがあげられます。治療後に溶解剤を内服する必要があります。
※しかし、胆石の原因は胆嚢の機能低下であるため、(2)や(3)による根本治療は難しいと思われます。
石があるのに症状がない「無症候性胆石」 はどうするの?
超音波検査などで、胆嚢に石が見えるのに本人には全く症状がない、という例が決して珍しくありません。
石の数が少なければそのまま経過をみていくこともあります。しかし、いつ症状を引き起こすかわかりませんし、石の刺激で胆嚢の壁が厚くなってきたり、癌が出てきたりという危険もないとはいえませんので、超音波検査などで定期的に検査観察を続けていかなければいけません。
胆嚢を切除しても日常生活に問題はないの?
胆嚢は胆汁の貯蔵する場ですが、生きていく上で絶対に必要なものではありません。胆嚢がなくなった場合は、肝臓自らが、食事に応じて胆汁を出しますので、特に問題はありません。
胆嚢を切除すると、一次的に消化不良や下痢を起こすことがありますが、医師の指示に従って整腸剤を服用したり、食事に気を付ければ、日常生活に支障はきたしません。
「胆管結石」はどうしたらいいの?
胆管結石は、胆嚢結石よりも激しく重い症状を引き起こす場合が少なくありません。細い胆管に石が詰まってしまうので、胆汁の流れが阻害されたり、胆管が石を排出しようとして激しい痛みを起こしたりします。また、胆汁の流れが阻害されると、肝臓にまで影響がおよぶこともあります。
緊急の場合には、内視鏡で鉗子という細い器具を胆管に送り込んで石をつまみ出すといった処置が行われます。
胆石症と胆嚢癌は関係はあるの?
胆嚢結石症で胆嚢癌の合併率は 1~1.5%と言われています。しかし 60歳以上では 8.8%と高くなります。胆石の存在により癌発生頻度が有意に増加するという報告はありませんが、胆嚢癌の危険因子は、3cm以上の胆嚢結石、ご家族に胆嚢癌になった方がおられること、長期にわたる胆嚢炎をわずらっていることなどとも言われています。いずれにせよ、取った胆嚢にガンがないかどうかを病理組織検査で調べます。ガンがない場合は治療終了となりますが、ガンが認められた場合は追加で手術が必要になることもあります。
おわりに
胆石症の診断や治療は、最近大変進歩しました。悩みを抱えている方は、積極的にお医者さんに相談してみることをお勧めします。いろいろな解決法、悩みの軽減法がみつかると思います。
福岡輝栄会病院 外科部長 山本純也